「逆転発想のサブディビジョン・モデリング」の解説の続き。今回は「なぜマルチレゾ・モディファイアを使わないのか?」と「なぜミドルポリ?」の解説。今回も座学。
更新履歴
2024/01/17 ポリゴン密度の定義を追加。
2024/01/15 公開。
(約 3,700文字の記事です。)
前回の復習
要するに、前回の内容はこんな感じ。
- ローポリかミドルポリでスタート
- 完全ローポリスタートではなくて1, 2段サブディブUPして静的メッシュにしてからスタート
- サブディブを下げる方向でサブディビジョン・モデリングを実現させる
- デシメート・モディファイアを使う
- レベルを下げるほどPCが重くなる
- レベルの下限は「最初に作ったトポロジ」まで。それ以下は三角ポリが発生するのでNG(非推奨)
なので肝は序盤で1段か2段サブディブレベルを上げて静的メッシュにしたものからスタートし、デシメート・モディファイアでサブディブレベルを下げる方向でサブディビジョン・モデリングを実現させることだ。逆の方向でディビジョンレベルを制御する。
今回はなぜこの逆転の発想、逆の手順になったかの技術的な解説です。
ポリゴン密度と用語の定義
当サイトおよび当マガジン内での用語の定義をここで確認してみよう。
ポリゴン密度について。ローポリ、ミドルポリ、ハイポリの解説。当マガジンに限らず、当サイトではおよそ以下のようなポリゴン密度状態のことをローポリ、ミドルポリ、ハイポリと呼んでいる。以下の画像はBlenderのフラットシェード利用でオブジェクトモードのワイヤーフレーム表示ONの見え方。ディビジョンレベルを1つずつ上げていった例。
- ローポリ:細部がなく、形を簡単に変更できるベースメッシュ。
- ミドルポリ:滑らかな形を出せるが、スカルプトには全く不足。
- ハイポリ:トポロジを無視した造型であっても四角面が見えにくい状態。
当サイトではメッシュ密度の状態で上記3つの言葉を使い分けることにする。
図のようにミドルポリだけが「ローポリ寄りのミドルポリ」と「ハイポリ寄りのミドルポリ」という感じで2つに分かれて見える。ローポリ側とハイポリ側は2種類とも明らかに識別できるが、ミドルポリだけがどちらにも寄せることができる重要なポリゴン密度状態とも言える。だからこそミドルポリがとても重要なのだ。
ローポリ、ミドルポリ、ハイポリの定義について。これは業界の規格として決まっているものではなく、あくまでも当サイトのみで解説者の私が主観で判断しているものだ。なので明確な基準や厳格なルールがあるわけではないことに注意。
また1つのオブジェクトの大きさによってもポリゴン密度は変わる。
何万ポリという表現だと逆に分かりにくいことがある
なのでよく考えるとオブジェクトの大きさが決まっていない状態でX万ポリまでがローポリ、Y万ポリまでがミドルポリ、Z万ポリ以上がハイポリ、というのは、よくよく考えると曖昧だ。だが一般的な3DCG業界では上記のX, Y, Zのおよそ基準となる値が存在する。
ややこしいのはその業界ごとに上記のX, Y, Zの数値が大きく異なる点だ。例えばゲームキャラの場合とフィギュア原型用のデジタルデータではポリゴン数に関する感覚が全く違う。
他にも例えばゲーム業界と一口に言っても、プロップ(小道具)、雑魚キャラ、味方キャラ、主役、大ボス、ラスボスでは当然割り当てポリゴン総数が大きく異なる。なのでA万ポリという表現だけでは「分かるようで分からなかったり」する。
なので主体がなんなのか、これによっても例えば1万ポリがローポリなのかミドルポリなのかハイポリなのか?その意味が変わる。プロップのハイポリ1万ポリは、最終決戦時のラスボスのポリゴン数ではローポリだったりする。
ハイポリ側のミドルポリを基準とする理由
シンプルに見えて、実は理由がいくつもある。
- 編集モードで完全なメッシュを操作できるようにするため
- スカルプト変形をシェイプキーに保存・再生させるため
- 外部ソフトと静的メッシュの往復を実現可能にするため
編集モードの操作対象は静的メッシュのみ
これは各自で試せばすぐに分かる。モディファイアやジオメトリノードで実現させたメッシュは動的なメッシュ。なので編集モードに入った途端、突然に操作できる3要素(頂点、辺、面)が非表示になる。
そしてこれはマルチレゾリューション・モディファイアも例外ではない。
マルチレゾ・モディファイアは当手法とは違って、ごく普通の発想でサブディビジョン・モデリングを実現させる。だがモディファイアなので編集モードで操作しようとすると突然ローポリ過ぎるメッシュになる。
この見た目のギャップが色々なストレスを生み出す。なぜ中間レベルを編集モードで操作できないんだ!と……。
マルチレゾ・モディファイアの使いづらさ
前にも軽く説明したが、マルチレゾ・モディファイアでは一度メッシュを静的メッシュに変換すると(つまりモディファイアを適用すると)頂点番号が書き換えられる。なので過去のシェイプキーが全滅する。これが痛い。
☕ シェイプキーを使わない人はどうなる?
ただしシェイプキーに依存しないワークフローならば、実はマルチレゾ・モディファイアは以外に使い道がある。静的メッシュにした後でも、トポロジ構造を変更をしていなければ再びマルチレゾ・モディファイアをセットして「細分化」あるいは「細分化を再構成」でサブディビジョン・モデリングに復帰できる。
②はマルチレゾ・モディファイアを新規でセットしたときだけ現れる特殊なアイテム。自動で細分化を復元可能なレベルまで復元してくれる。ZbrushのReconst Subdiv(細分化の復元)とほぼ同じだろう。
ただしシェイプキーを使わないにしても、(Zbrushの場合と同様で)「ある時点でジオメトリ構造を変更した」場合、それ以前の低レベルのディビジョンレベルには落とせなくなる。メッシュ全体がカトマル・クラーク法に従っていなければ細分化の復元を実行できないみたいなのだ。
ま、要するにマルチレゾ・モディファイアは、実はとっても使いづらい。Blenderでサブディビジョン・モデリングがやりにくい理由はこれだ。
その点で言えば、Zbrushの方が遥かに仕組みが整っているし、チュートリアルやワークフローも枯れている。そこは認める。
なのでどうやらこの時点で、いわゆる普通のサブディビジョン・モデリング手法ではBlenderでは使えなさそうだ、と諦めていた。
そして逆転の発想。今、満足できるポリゴン密度からスタートして、逆にディビジョンレベルを「下げる」方向ならどうか?という発想に至った。そして色々上手くいったわけだ。
編集モードで全ての要素を制御できる
まぁ、当たり前の話で、メッシュが静的メッシュ前提なので、編集モードでも全ての3要素(頂点、辺、面)を扱える。
ただしこれも試してみれば分かるが、スカルプトに必要なほどのハイポリを編集モードで操作しようと思うと途端に、メチャクチャ扱いづらくなる。
これで頂点結合やらループエッジ制御やら、ほぼ絶望しかない。トポロジなどあるようでないような状態だ。ウェイト調整などもってのほかだ。苦行過ぎる……。
なので1周回って逆に、編集モードで全ての3要素(頂点、辺、面)を扱う以上、ハイポリでは逆に扱いづらくて、結局ミドルポリ程度までが一番楽、という結論。やっぱりBlenderはミドルポリまでが最も得意なのだ。他のDCCツールでもそうだろう。
ミドルポリで輝く編集モード
トポロジ制御は当然として、エッジにクリース値を入れての山や谷のエッジのきつさを制御+サブディビジョンサーフェス・モディファイアでの動的な滑らかさの生成。
またプロポーショナル編集による、これまた自動的な滑らかさの変形。
約8千ポリのスザンヌ。ローポリとハイポリの中間という感じだ。このくらいのミドルポリが最も扱いやすい。滑らかな形を出しやすく、トポロジ制御も何とかできる絶妙なミドルポリと言えるだろう。このくらいが当手法で扱うターゲットとなる。
ワークフローを区切る「ミドルポリまで」限定
逆に言うと、今のようなミドルポリまでのワークフローが当手法の限界だ。色んなことが可逆であり「いつでも、何度でも可逆編集」ができる代償として、ポリゴン数がミドルポリまでだ。
ここから先になると、例えばシェイプキーによるスカルプト変形の微調整を完了させるとすれば、シェイプキー縛りを捨てられる。なのでスカルプト変形と編集モードでの変形でいいならば、1オブジェクトあたり約800万ポリまで上げられる。そうなればサブディビジョンサーフェス・モディファイアも不要だろう。ゴリゴリスカルプトして形を出して仕上げる方向に進めばいい。その間でもリグポージングはできるので、ポーズの微調整は可能だ。また静的メッシュとして800万ポリにせずにマルチレゾ・モディファイアでポリゴン数を上げればウェイト調整もまだ楽だろう。
No. | シェイプキー変形 | サブディブ モデリング | スカルプトの ポリゴン上限 |
---|---|---|---|
1 | しない | しない | 約800万ポリ |
2 | 利用 | しない | 約50万ポリ |
3 | 利用 | 下1段のみ | 約12万ポリ |
4 | 利用 | 下3段、 上1段まで | 約4~5万ポリ |
1オブジェクトあたりのポリゴン上限です。キャラ全体の複数オブジェクトの総合計ポリゴン数ではありません。なのでもし1メッシュで超絶ハイポリであってもそのメッシュを複数のオブジェクトに分ければ、この条件内でPC能力の上限までBlenderで作業できます😍希望があります!
なので当手法で「最初から最後まで通す」のではなく、色んなことを「作りながら変更しながら」大きく調整と微調整とを繰り返す工程までを当手法でミドルポリで煮詰める。そしてゴールが見えてきたら当手法の旨味をバッサリ捨てて、仕上げに入っていく。その場合には当手法の色んな制約がなくなる。可逆性もなくなる代わりに、スカルプト仕上げに向けたハイポリ・スカルプトを採用できるようになる。
そしてBlenderでのハイポリはバージョンが上がるごとに確実に軽く動作するようになってきている。ここにも期待できる😊
最初からミドルポリで押し通したら?
それができるならば一番いい。デシメート・モディファイアによってPCに負荷をかけながら無理矢理サブディビジョン・モデリングをやる必要もない。うん、その通り。
だがしかし!先人が作り上げたサブディビジョン・モデリングならではのメリットも当然あるわけで。なのでその旨味を使いたい場合、残念ながら「最初からミドルポリで押し通す」ことはむしろ悪手だ。
今ココでサブディビジョン・モデリングの旨味の解説に入ると迷路に入る。なので各自でサブディビジョン・モデリングについてメリット/デメリットについて調べてみて欲しい。
まぁ要点だけを言えば、
- 動的メッシュによる自動角丸化・シャープ化、その可逆な調整
- ハイポリ側の高精細スカルプト情報を維持したまま、ローポリ側の大きな形状変更ができること
この2つに集約されるだろう。あとは各自で調べてみてね😊
ミドルポリでもSubDivモデリングしたい
なのでミドルポリであってもサブディビジョン・モデリングは使いたいわけだ。そしてひねり出したのが当手法の逆転発想のアプローチ。あえてマルチレゾ・モディファイアを使わない理由も今なら分かったはずだ。
基本原理はこれで説明完了。次の記事から実例を使ってサブディビジョン・モデリングの使い方やシェイプキー変形にスカルプト情報を保持させた実例を説明していく。ようやく座学から手を動かせるシーンに入っていきます😍
今回の創作活動は約1時間30分(累積 約3,708時間)
(960回目のブログ更新)